【数字に騙されないシリーズ①】財務三表(IFRS)って何なの?について語ろう

こんにちは、まさです(*`・ω・)ゞ

それでは、財務三表について語っていきたいと思います。

財務三表とは

財務三表とは、

・貸借対照表 Balance Sheet
・損益計算書 Profit and Loss Statement
・キャッシュフロー計算書 Cash Flow Statement

の総称のことです。



一般的には、BS(ビーエス)、PL(ピーエル)、CF(キャッシュフロー)って呼ばれているかと思います。
IFRSを知っている通なビジネスマンを気取りたい方は、BSではなくて、財政状態計算書(Statement of financial position)と呼びましょう(笑)


この財務三表でも一番基礎となるが、貸借対照表
その会社の現状を把握することができるのが貸借対照表なので、これがないと話が始まらないっ!


幻想水滸伝で例えるなら、本拠地ぐらい大切なものが貸借対照表です!
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本拠地がないと仲間を集めることもできないし、お風呂にも入れないし、料理対決もできない。。。
本拠地は、プレイヤーにとって唯一無二の不可欠な存在っっ!!!

ってな感じで、その本拠地と同じぐらい重要なのが、貸借対照表なのです!

まあ、幻想水滸伝を知らない方には何のことか分からないと思うので、とりあえず、貸借対照表は会社の基盤であるということだけ覚えて下さい( ̄▽ ̄;)


そんな、BSの中でも重要なのが、利益剰余金とキャッシュの2点です!

利益剰余金は、BS上「資本の部」に表示されています。
「資本金」「資本剰余金」は増資など株主との取引から発生するのに対して、
「利益剰余金」は企業が生み出した利益を積み立てたお金で、過去の利益のうち内部に蓄積されているものです。

この利益剰余金は何を意味しているかというと、「既存株主にいくら配当を支払ってよいか?」を意味しています。


「企業がお金を稼いでいるかどうか?」ではなく、「既存株主にいくら配当を支払ってよいか?」です!(重要なので2回言いました)


例えば、アメリカのSaas企業であるWorkday, Inc.のPLを見てみましょう!
<Workday 10-Kより>
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Workdayは、売上高2,822MUSD(大体、2800億円ぐらいとご理解ください)、当期利益▲418MUSD(大体、マイナス400億円)となっています。

これだけ見ると赤字垂れ流しで、全然お金を稼いでいない企業ですね^^;




今度は、Workday, Inc.のCFを見てみましょう!
<Workday 10-Kより>
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営業キャッシュフローが、なんと606MUSD(大体、600億円!)!!

Workday, Inc.はムチャクチャ儲かっているんですねー

何故、当期利益▲418USD→営業キャッシュフロー606MUDSと1,000MUSDもの差が生じているかというと、
・減価償却費  198MUSD
・株式報酬費用 652MUSD
・前受収益   344MUSD

が営業キャッシュフロー上で加味されているからです。


・減価償却費は、過去に取得した有形固定資産(土地、不動産)や無形資産を10〜20年に渡って費用化するために発生している費用で、実際にお金の支払いは生じていないです!

・株式報酬費用は、役員・従業員に対して、人件費をお金ではなく株式or新株予約権で支払うので、こちらもお金の支払いは生じていないです!

・前受収益は、Saasビジネスなどでは年間の利用料を一括で前入金されるのに対して、売上計上は毎月々に均して計上する必要があるので、お金の入金はあるけど、売上計上できていないのです!

という感じで、企業が生み出した利益と実際のキャッシュの出入りは大きな差があるのです!




何故、そんなに大きな差が生じるかというと、、、、

会計の利益計算上には、「保守主義の原則」があるからです!



会計上は、債権者保護の観点から、株主に対して多く配当を支払わないように、利益を保守的に計上するという原則があります。

年間の利用料が一括で入金されたとしても一括で利益を計上することなく、毎月々のサービス利用に合わせて売上が遅れて計上されます。しかし、サービス利用者を獲得するためのマーケティング・営業費用は、発生した時点で費用化されているので、費用だけが先行して会計上PLに計上されます。

また、株式報酬についても、お金の支出はないものの、既存株主にとっては自分たちの配当原資が減ってしまうために、その分を損失として利益上計上する形になっています。クライアントや銀行などからしてみれば、キャッシュアウトがないので何も支障がないのですが、既存株主にとっては取り分が減ってしまうため困ってしまうので損失計上するという論法ですね。

この保守主義の原則により、CF上は支出よりも入金が上回っているにも関わらず、利益は売上計上が遅れてしまい赤字になるという現象が生じるのです。



WorkdayのようなSaas企業は、マーケティング投資をして事業が拡大すればするほど、PL上は赤字が先行してしまいますが、営業CFは大幅な黒字を計上して、それを次の投資に回すことができるという好循環を生みだしています。


なので、利益を見るだけでは「この企業はお金を稼いでいる!」ということは判断できず、BSPLCFの財務三表を見た上での判断が必要になってくるのです!

次は、PLを見ていきまししょう!



PLとは

PLは決算期間中に、BSの利益剰余金に累積される利益を「どれだけ稼いだのか?」「どのようにして稼いだのか?」を教えてくれます。


先ほど、BSの中でも重要なのが、利益剰余金とキャッシュの2点と言ったのですが、PLはその内の利益剰余金が事業活動によってどのように増減したかを教えてくれる利益剰余金の増減内訳明細です。

ちなみに、キャッシュが事業活動によってどのように増減したかを教えてくれるのがCF計算書です!

特に、この「利益剰余金とキャッシュ」の増減内訳を知ることが、事業活動を理解するのにムチャクチャ重要なので、特別にこの2つについて決算期間中の増減内訳を開示することが求められているのです!



余談ですが、グローバルスタンダードの会計基準であるIFRSを適用すると、有形固定資産やのれん・無形資産の期中増減明細、繰延税金資産・負債の期中増減明細、レベル3で評価する公正価値の有価証券の増減明細、信用リスクの増減明細など、あらゆる項目の増減明細を年に一度開示する必要があります。
期中の増減理由を正確に分析して増減明細をつくる必要があるので、たくさんの項目の増減明細を作成するのはかなり大変ですよ。。。(ーー゛)
日本基準だと、とりあえず一番重要な利益剰余金とキャッシュの増減明細だけをちゃんと作れば良いので、楽チンです!



以下が、IFRSのPLの代表的な内訳項目です。
<PLの代表的な内訳項目>
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表に示した通り、売上総利益、営業利益、税引前利益、当期利益の順番で利益項目が記載されています。

IFRSでは、特別項目を控除した利益項目を表示してはいけないとなっているので、日本基準みたく経常利益という項目がありません!


日本基準の経常利益は、営業利益に金融収益・費用のみを加味して、特別収益・費用を控除した利益項目ですが、IFRSでは特別項目を控除した利益項目が使えず、営業収益にリストラコストや減損費用などの一過性の収益費用項目が含まれています。
なので、IFRSを適用している会社の営業利益を見ると、減損費用やリストラコストの有無で毎期の営業利益が凸凹してたりします。



そのため、電通とかでは、会計上の利益項目とは別に、減損費用や固定資産の除却・売却などの一時的要因を控除した「調整後営業利益」という利益項目を生み出して、恒常的な収益力を経年比較できるようにしています。
<電通 決算説明会資料より>
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結構、欧米の会社もNo-GAAP Operating Profitみたいな、会計上の利益項目と別項目を作り出して、対外的に説明していたりするので、グローバルでも結構一般的な手法だったりしますw



で、PLで重要な項目がどれかと言われると、売上収益、営業利益の2つだと思います。


売上収益は、どれぐらいの規模のサービスを提供しているかを教えてくれますが、特に売上成長率が重要です!


売上成長率が高い会社は、その会社のサービス・製品が世の中に広まっていっている証拠であり、将来有望な会社であると言えます。

これは私の持論ですが、結局のところ「企業は何のために存在するのか?」を問われると、世の中に良いサービス・製品を届けるために存在しているだと思っています。
世の中にとって良いサービス・製品を持っていない会社に対して、事業拡大するための資金を提供する必要はないですし、世の中にとって良いサービス・製品をスケールさせるために、その企業に資金を集約させて、事業の拡大・再投資を行ってもらうことに意義があるのだと思います。


投資家目線で見ると、
①便利なサービス・製品を持つ企業を見つける
②便利なサービス・製品を広げるために資金提供する
③サービスが広がり、投資が必要なくなったタイミングで、リターンを得る
という投資サイクルが重要であり、「便利なサービス・製品があるか?」「世の中に受け入れられている証拠として、事業が拡大しているか?」ということが重要だと思うわけです。

なので、売上収益の成長率はPL項目の中でも最も重要な項目の1つだと思います。




また、サービスが広がりきったタイミングで利益を稼がないと、新しい事業への投資ができないため、成長の過程で利益率が改善してくることも重要です。
特に、営業利益は「運営している事業でいくら稼いでいるか?」を表す指標なので、事業が上手く言っているかどうか判断するには最適な指標だと言えます。

税引前利益は、営業利益から財務費用やその他の営業外費用を調整したものですが、財務費用は最適資本構成をどのように捉えて、投資資金を調達するかという会社側のポリシーにもよるところがあり、事業同士を純粋に比較をしたい場合は使い勝手があまり良くないです。

同様に、当期利益は、税引前利益から法人税費用を控除したものですが、法人税費用も色々なコーポレートアクションによって操作できるので、純粋な事業の実力というよりは、コーポレートサイドの税コスト最適化の能力を含んだ評価になるので、こちらも事業同士を純粋に比較をしたい場合は使い勝手があまり良くないです。


とにかく、営業利益成長が企業の利益成長(+企業価値向上)の原動力なので、純粋に事業同士を比較したい場合は営業利益を見るのが良いと思います!

CFとは

最初の方にお話した通り、「企業がお金を稼いでいるかどうか?」を判断するためには、会計上の利益だけでなく、キャッシュを生み出せているかを見るのが重要です。
キャッシュが事業活動によってどのように増減したかを教えてくれるのが、先ほどお話したCF計算書です。

CFで特に重要なのは、営業CFと投資CFです。営業CFと投資CFを足し合わせたものを、FCF(フリー・キャッシュ・フロー)と言いますが、このFCFが1年を通して事業運営で手許に残ったキャッシュです。


会社の企業価値(=時価総額に近い概念)が何で決定されるかというと、将来のFCFの総和で決定されます。



結局のところ、投資家は最終的にはキャッシュが欲しいのであって、利益はそのキャッシュを生み出す要素の1つに過ぎません。
事業を拡大するとともに運転資金が増えるため、利益が計上されていてもそれ以上に運転資金の増加でキャッシュが出ていってしまい、営業CFがマイナスになることもあります。
その状態がヒドくなると黒字倒産することもあり得ます。

また、事業拡大にともない、オフィス拡大や工場などへの設備投資も必要になりますが、このキャッシュアウトは資産計上されるので、PLには計上されません。
投資CFにのみオフィス拡大や工場などへの設備投資でのキャッシュアウトが表示されていますので、リスク高い投資をしていないかなどを投資CFでモニタリングする必要があります。


このように、利益とキャッシュの増減は往々にして乖離してしまうので、事業の収益力を把握する上で、営業CF+投資CF(=FCF)を把握することは非常に重要になってきます。

例えば、のれんやPPAで発生した無形資産の償却費はPL上は利益を押し下げるが、CF上は支出がありません。
これは、「保守主義の原則」のため、会計上はM&Aで取得した無形資産を償却させるという会計処理が求められるのですが、キャッシュアウトを伴わない費用であるため、企業価値を測定するためには控除しなければいけません。
利益の計算上は「既存株主にいくら配当を支払ってよいか?」を重視しており、「現在、キャッシュをどれぐらい稼いでいるか?」はPL上は表示されないのです。



以上です。

「そもそも企業価値はどう決まるのか?」とか、「最適資本構成って何?」とかの話をすっ飛ばしているので、分かりにくいとこもたくさんあったのですが、それはまた追々解説したいと思います^^;